『包帯に包まれた彼女の痛々しさよりも,今は私の心の痛さの方が大きかった。今まで私はなにを知っているつもりだったのだろう? 優しさとて,いとしさとて。』
デル社がアップル社の携帯音楽プレーヤー,iPodのウインドウズ版の販売を始めた。アップルにとってはデルのオンラインストアが魅力であり,デルにとってはiPodの魅力が大きいため,ライバルの利害を越えて両者の思惑が一致した。
iPodの魅力は目にみえないところにある。目にみえるもの,と云うのは,いつでもなんでも些細なものだ。外観は気になる大切な要素のひとつであることは否定しないが,唯一無二の要素とはならない。ウインドウズ版でどこまで再現されているかはわからないが,マックのハードウェア・ソフトウェアとの圧倒的な統合性,パソコンからそのまま戛然と音楽プレーヤー部分を取り出した包容力,それらは確かな唯一無二の要素となっている。
『彼女が見た目を失ったのは,冬の風に襟元を直すような季節だった。そしてそのときまで,彼女のうちに秘めた魅力に気付かなかった私は,自分を責めてしかるべき存在,と云っていいだろう。すべてを包み込む包容力,手を触れるだけで思いのすべてを気付いてくれる優しさ,存在のエレガントさ。なにもかも,今はすべてがいとおしく感じられる。なぜ,あのとき私は気付かなかったのか? 愛すると云うことは,相手のステキな部分をひとつひとつ知っていくことだと云うのに,あのときの,私は?』
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